
「自殺」と「自死」
高齢化社会の到来と同時に社会問題化しているのが高齢者による自死の増加です。自分で自分の死を選ぶという行為は、一般に「自殺」と呼ばれ、これは「自分で自分を殺す」という意味になります。
旧来の考え方では「自殺は意志の弱い者が現実からの逃避として行う行為」とされてきました。「自殺は自身による殺人」として強く戒めている宗教も少なくありません。
しかしながら、昨今では高齢者の自殺率の増加に伴い、自殺の「殺」という漢字を回避して「自死」という言葉に置き換えられるようになってきています。
高齢者の自死は日本だけでなく欧米先進国でも同じようにみられる傾向で、特に現代では最も進んでいるといわれる北欧諸国においても高齢者の自死率が高いことは、国の福祉政策と人間の幸福度について、考慮すべき問題をわれわれに投げかけているように思えます。
高齢者の自死問題と行政の取り組み
国家が、いかに福祉政策に力を注いでいるかを検証することによって、その国の政治の成熟度が判るといわれます。成人してからの数十年を一生懸命に働いたことで、社会経済に貢献した人々が、高齢者となって余生をおくるときに、国の手厚い福祉政策の恩恵を受けることは当然過ぎるほど当然だといえます。
ただ問題は、経済的に問題がない生活をおくれたとしても、人間は精神的な充実感が得られない以上、それは幸福な第二の人生とはいえない、という点に集約されそうです。
現段階で、行政側ができることは、福祉政策による経済面での援助や医療・介護・レクリエーション施設などを充実させて支援することとされています。
日本は世界屈指の経済大国でありながら、北欧の先進国に比べて福祉政策がかなり立ち遅れていたことから、1990年代からこれを改善すべくさまざまな法案が策定され、実際に施行され成果を挙げている事例も少なくはありません。
自分にも起こり得る問題
しかし、いくら福祉政策を充実させても一向に減少する兆しのない高齢者の自死問題については、国家が個人の精神的領域に踏み込めない以上、できる対応策は限られているとする意見もあります。
北欧先進国と同じように、日本でも国民の高齢化とともに少子化が進み、必然的に高齢者が一人暮らしを余儀なくされる状況が増加していることも自死を加速させる要因ともなっているようです。
壮年期に仕事人間だった人や、真面目な性格の人ほど孤独感に耐えられずうつ病を発症するパターンが多いとも指摘されています。
高齢者の自死問題は、国家の行政姿勢をうんぬんするよりも、国民が自分自身にも起こり得る問題として考える時期にきているといえるのではないでしょうか?
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